2. 海水の物性と水塊分布

●海洋における水温の鉛直構造
表層混合層、中層(主温度躍層)、深層



上図:北太平洋の水温鉛直断面分布。0-1000mあたりを表層、それ以深を深層と呼ぶ。500-1000mあたりを中層と呼んで区別することもある。

●海水特性は主として水温と塩分(塩分濃度と言ってはいけない。海水中に溶けている塩類の「分」と「濃度」が重複するから)で議論される。同様の特性をもった海水の集まりを水塊と呼ぶ。

 現場水温は圧力の関数であって、深海(=高圧)になるにつれて高くなっていく。下に行くほど高温になっていく状況は、暖かい海水が軽いことを考 えれば不安定に見える。しかし、深層の海水が何らかの原因で上昇すれば、周囲の圧力が下がることで周囲と同様の低温に戻り、浮力を得た上昇は、それ以上は 発展しない。成層の安定・不安定を調べるためには、現場水温ではなく、ある水深(表層0mをとる場合が多い)を基準にした水温(温位, ポテンシャル水温)に換算する。


塩分が35でポテンシャル水温を10℃に固定した場合の、10mから10,000mまでの現場水温の変化。これは中立安定成層である。実際には、北太平洋中緯度を例にとると、10000m近くでの現場水温は2℃弱でポテンシャル水温は1℃程度。

現場水温からポテンシャル水温の換算式は、ここ

 塩分とは、海水1kg中に溶解している全固形物質のg数。ただし、これを計測することは困難なので、電気 伝導度を計測し、標準海水(一本5000円くらいで売っている)が示す伝導度との比で決定する。比なので、塩分は、原則、無単位。でもややこしいので、 psu(practical salinity unit; 実用塩分単位)を付けることがある。海水の塩分は0-35psu程度で変化する。

 海水密度は、水温と塩分、そして圧力を用いて状態方程式で計算する。

状態方程式は、ここ

 北太平洋において有名な水塊には、400-800m深の塩分極小層として特徴付けられる北太平洋中層水(North Pacific Intermediate Water)がある。これは高緯度における冬季の海面冷却で冷たく(重く)なった海水が中層にまで潜り込み、その後に海洋循環によって北太平洋全域に運ば れたものである。図に示すように、亜熱帯域の中層においても、低塩分の水塊として明瞭に周囲と区別することができる。水塊を追跡することによって海洋循環 の在り方を知ることができる。講義では、これ以外にも回帰線水(Tropical Water)について解説する。



20Nにおける密度の等値線(実線)と塩分(カラー)の鉛直断面分布。400-600m深に、緑色で示した低塩分水塊(NPIW)が特定できる。