地衡流平衡


テキスト ボックス:
 上図は九州西南海域での力学的高低図(海面の高さの分布と見なして良い)と、観測された海表面の流速分布を示している。黒潮の強流帯を見ることができるが、おおよそ海面水位の高い方を右に見て流れていることがわかる。


 また、下図は、対馬海峡の西側(西水道=対馬と韓半島の間)で向き合う、厳原(対馬)と釜山(韓国)の水位差(相対値)の時系列を示す。夏季の厳原の水 位は、釜山よりも10cm以上高くなることが分かる。また、その下には超音波流速計で観測した、対馬海峡における1〜3月(左)と7〜9月(右)の平均的 な流速鉛直断面分布(正値は、日本海向き,単位はcm/s)を示す。図の右側が九州で、左が韓半島になっている。厳原の水位が高くなる夏季に、西(図の 左)側の流速が著しく増えている。すなわち、水位の高い方を右に見て、強い流れが生じている。

  このような圧力(この場合は海面の高さ)の等値線と平行になる流れの定常状態は、圧力勾配と流れに伴うコリオリ力の平衡状態によって達成されるもので、この平衡状態を地衡流平衡流れを地衡流と呼ぶ。




 講義では、地衡流平衡状態では、以下が成立することを解説します。

@流速が圧力勾配力に比例すること


A等圧線に沿った流れになること


B鉛直方向の流速が生じないこと(地衡流は非発散であること)


C密度が一様ならば、流速は鉛直方向に変化しないこと(Taylor-Proudmanの定理)
 →地衡流は等深線に沿った流れになること
 →地衡流平衡状態では、等深線と等圧線は平行になること


東シナ海の海面流速分布(Isobe, 2008)

海面流速にも関わらず、等深線(点線)と平行に流れていることに注目してください。

例えば、台湾から九州南部へと流れ抜ける黒潮は、急峻な陸棚縁に沿って流れています。


【講義で行った実験のムービー】

回転したレコード盤の上にビーカーを置いて、中心に据えたコイン柱めがけてスポイドで着色水を投入します。



【解説】

Taylor-Proudmanの定理に従って、着色水の投入で生じる流れは鉛直方向に変化しません。赤い着色水がカーテンのように広がって、水平二次 元的な(鉛直一様な)流れの場を可視化しています。コイン柱の上にも、まるでコイン柱が上に延びているかのように、着色水が円柱形に広がっています。この着色水の円柱 構造を「Taylorの柱」と呼びます。レコード盤の回転を止めれば,流れの鉛直一様性は崩れ、Taylor柱も消えてなくなります。



----------講義はここまで--------------



【参考】

密度が変化する海での地衡流

 地衡流平衡がほぼ成立している海流中の密度の鉛直分布を見ると、図のように、密度の水平勾配は海面水位と逆になっている。すなわち、海面が高いところは軽く(暖かく)、低いところは重い(冷たい)
テキスト ボックス:  地衡流平衡は、

浅いところは海面水位による圧力勾配によって、水位の高いほうを右に見て流れる。深くなっていくにつれ、密度による圧力勾配が海面水位による圧力勾配を打ち消して、地衡流は弱くなっていく(アイソスタシーの成立)