深層循環論


深層循環の模式図. Stommel(1958, DSR)の図を元にリライトしました。

 上図のような深層循環(大洋の真ん中では極向き、西岸でその補償流というパターン)が生じる理由を考えてみよう。

 図のように、周囲を壁に囲まれた水深一様なモデル海を考える。このモデル海は深層を表していて、図には示していないが、この上には表層が乗っている。また、極
(図の青い丸)の表層で冷やされた冷水が深く沈みこんで深層に達し、深層内をゆっくりと広がっていく(図の青い矢印)ものとする。
テキスト ボックス:   さて、深層に供給された冷水はどこからか出て行かなくてはいけない。周囲は壁に囲まれているので、深層上部から鉛直上向き(図の黒い矢印)に表層へと帰っていくと考えられるだろう。今は簡単のため、この鉛直上向きの流速を、空間的に一様なW0とおく。深層が常に低温に保たれていることは、鉛直上向きの流れの存在を示唆するものである(講義で詳しく)。


 今、東向きをx、北向きをy、深層最上部をz=0として上向きにzの正をとる。水深はz=Hとおく。ここで地衡流平衡の式(講義の(1)(2))と連続式(同(3))を用いると、



 

(中略)





テキスト ボックス:  を得る。(4)によると、深層最上部で上向きの流速W0をあたえることで、左図Aのように、南北半球でのコリオリパラメータの正負に応じて極向きの流速が駆動される。

 深層海洋の大部分で極向きの流れになる要請から、極からやってくる冷水は、図B(北半球を拡大)の@かAのように壁伝いにやってくると考えよう。@は南下の後、反時計回りの循環を形成し、Aは時計回りの循環を形成する。

南下流に作用するβ効果は、表層循環で述べたように反時計回りの回転を強制する。このとき、同じ回転方向を持つ@だけが存在することを許され、Aは消えてしまうだろう。結果として、深層循環は表層と同様に西岸近くに境界流を持つことになる。







テキスト ボックス:


 深層循環の西岸境界流は、深層最上部からでていく鉛直上向きの流量とのバランスをとるために、赤道を越えることもありえる。

 深層に及ぶほど大規模で定常的な冷水の沈み込みは、いずれも大西洋の、グリーンランド沖と南極ウエッデル海の2ヶ所で確認されている。