外洋の海況変動に対する沿岸海洋の応答

1.  急潮予報システムの開発

   豊後水道や相模湾など、黒潮が流れる外洋域に広く接する沿岸域では、時折、海水温の急激な上昇が観測されます。この水温上昇は1日に数℃に及ぶこともあっ て、養殖などの沿岸漁業にとって、けっして歓迎されるものではありません。このような水温上昇やこれに伴う強い流れの発生は、古くから漁業者にはよく知ら れた現象で、急潮(きゅうちょう)と呼ばれています。

 水温上昇に伴い下の写真のような海色変化が見られ、すなわち、急潮とは透明度の高い黒潮系水が内湾へ侵入する現象であることを伺わせます。また、近年の 衛星熱赤外画像の解析によっても、黒潮の一部が枝分かれして、そののち内湾に侵入する様子が捉えられています。


急潮前(左)と後(右)での養殖筏の水中写真。
急潮の後に透明度が格段にあがっており、これは貧栄養の黒潮系水の流入を示している。

 私たちの研究グループは、衛星海面高度データの解析によって、直径が100−200km程度の暖水塊が日本南岸に近づくことで黒潮前線を力学的に不安定 化させ、急潮発生の引き金になることを突き止めました(Isobe et al., 2010, J. Geophysical Research -Oceans)。


四国西岸で観測された水温記録(上)と、同期間(4枚のパネルは上図の黒丸に対 応)における海面高度の時系列。暖水渦Aの最接近と5月15日の水温上昇がよく対応している。
 
 
さらに、外洋の海洋循環を提供する再解析プロダクトを利用して、急潮を再現する数値モデリングを行いました。この数値モデルを利用して急潮予報にも挑戦しています(Isobe et al., 2012, Ocean Dynamics)。


数値モデリングで再現された急潮現象。上のパネルの四角形部分(豊後水道)における海面水温と海 面流速を下のパネルに拡大した。


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2.  外洋から沿岸を包括するマルチスケールモデルの構築

   大阪湾の底層で観測された水温や栄養塩には、10年規模での長期変動が見られます(Sugimatsu & Isobe, 2010, J. Oceanography)。 たとえば1980年代は"冷たいフェイズ"にあった大阪湾も、1990年後半から2000年代前半にかけては"暖かいフェイズ"にあったようです。また、 冷たいフェイズでは、同時に栄養塩濃度が高めに推移しており、このことは、低温で高栄養塩の黒潮中層水が、外洋から瀬戸内海深くに侵入しやすい状況にあっ たことを伺わせます。その後の私たちの研究(既存データの解析や数値モデリング)によって、日本南岸における黒潮流軸の揺らぎに応じて、瀬戸内海奥深くの 水温や栄養塩濃度が大きく変化することがわかりました(Sugimatsu & Isobe, 2011, J. Oceanography)。

大阪湾測点(左)での底層水温(右上)と底層栄養塩(硝酸態窒素)の長期変化

 先に示した急潮とは、太平洋を漂う暖水塊が、日本周辺へ接近することで起きる現象でした。あるいは上に示した大阪湾の長期海況変動 は、黒潮流軸の揺らぎに内湾が応答した一例です。現在、私たちの研究グループでは、現象の空間規模が100km以上である外洋から、数kmから数百mの現 象が卓越する沿岸海域までを一体として扱う、「マルチスケールの海洋循環モデル」の構築に取り組んでいます。密接に関連し合う外洋と沿岸の海況変化を包括 的に取り扱うことで、 沿岸海洋における諸現象の解明や予報精度の向上を目指しています。






非構造系三角形格子の有限体積法沿岸海洋モデル(Finite Volume Coastal Ocean Model)を利用して、北太平洋から瀬戸内海の海峡部までを一体として取り扱うマルチスケールモデリング(主にはM2の本井君の仕事)