海洋プラスチック汚染(漂流・漂着ゴミ)研究

 私たちは、漂着ゴミの中でも大多数を占めるプラスチックゴミに焦点を当て、ゴミに含まれる化学汚染物質(有害重金属・残 留性有機汚染物質)の検出や、 輸送実態の解明に取り組んできました。また、全国各地の海岸にライブカメラを設置し、ゴミの漂着状況を監視するシステムを確立させました。この世界に先駆 けて開発したウェブカメラによる漂着物の解析システムは、米国の海岸において、3.11津波漂着物の監視に役立てられています。オレゴン州ニューポートの海岸に設置した海岸漂着物監視用のウェブカメラのサイトはここ


 最近の興味の対象は、海洋を漂流・漂着するプラスチックが自然の中で数mm以下にまで微細片化した、"マイクロプラスチック"にあります。 動物プラン クトンと同程度の大きさにまで砕けた廃プラスチックにはPCBなどの有害物質が吸着し,これらが誤食を通して生態系に容易に混入する危惧があります。私た ちは環境化学(東京農工大・高田研究室)や海岸工学(愛媛大・日向研究室)の研究グループと共同しつつ、場合によっては練習船(東京海洋大・海鷹丸/神鷹丸[および海洋大・東海研究室])を駆使して、海洋物理学の視点から、マイクロプラスチックの輸送過程や形成・消滅過程に焦点を当てた研究を進めていま す。



日本周辺、および南極ー東京航路でのマイクロプラスチック調査

Isobe, A., K. Uchida, T. Tokai, S. Iwasaki "East Asian seas: a hot spot of pelagic microplastics", Marine Pollution Bulletin, 101, 618-623, 2015.   doi:10.1016/j.marpolbul.2015.10.042

 私たちは、東京海洋大と共同で、日本周辺海域および南極から東京に至る太平洋縦断航路でのマイクロプラスチックの調査を行っています。 2014年の日本周回航路での調査結果によれば、主に日本海を中心とした東アジア域で、マイクロプラスチックの浮遊密度は、世界の他の海域に比べて突出し て多いことがわかりました。解析結果を取りまとめた以下の論文では、東アジア域をマイクロプラスチックのhotspotと表現しています。現在、多くの研 究者が、今後に浮遊濃度が増え続けると予想されるマイクロプラスチックの、海洋生態系への影響評価に取り組んでいます。東アジア域は、世界に先駆けてマイ クロプラスチックの生態系への影響が顕在化する場所なのかもしれません。いまは、これまで得た観測結果を解析・モデル化することで、将来のマイクロプラスチック浮遊濃度の予測に挑戦しています。


東アジア域で採集されたマイクロプラスチック浮遊濃度(左:鉛直混合の影響を排除するため、鉛直積分した水柱全体の濃度に換算)と、神鷹丸での漂流プラスチック微細片の採取の様子(右)。東アジア域はマイクロプラスチックのhotspotである。









現在は、2016年1月から3月にかけて南極海から東京に至る航路で採集したマイクロプラスチックの分析中です。左は観測位置で、右は海鷹丸による南極海での観測風景(写真は東京海洋大にご提供いただきました)。















現在開発を進めているマイクロプラスチックの輸送モデル。当研究室助教の岩崎慎介さんの仕事。衛星データから推定した海表面流に、やはり衛星観測し た風データをもとに計算したストークスドリフト(風波による質量輸送)を組み合わせ、マイクロプラスチックに見立てた仮想粒子を追跡するシミュレーショ ン。










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日本の内湾を浮遊するマイクロビーズ

Isobe, A "Percentage of microbeads in pelagic microplastics within Japanese coastal waters", Marine Pollution Bulletin, in press.

 上に示した写真のマイクロプラスチックは、そのほとんどが、海岸での紫外線や熱による刺戟でプラスチックゴミが劣化し細片化したものです。しかし、海で採集されたマイクロプラスチックを観察すると、時折、大きさ1mm以下の球形に近い微細片を見つけることがあります(写真)。自然の劣化と細片化で球形になる可能性は極めて低く、これは、様々な製品(国連環境計画(UNEP)のFact sheetによれば、デオドラント・シャンプー・コンディショナー・シャワージェル・リップスティックなど、多種多様なpersonal care & cosmetic products;その他の工業用研磨剤の可能性があるが未確認)に、 スクラブとして人為的に混入されたプラスチック粒子(マイクロビーズ)と考えられます。環境省が2015年に実施した全国沿岸調査のデータを解析したとこ ろ、全26測点中、9測点からマイクロビーズ(0.3 mm <サイズ<0.8 mm)が検出されました。この9測点で同程度の大きさのマイクロプラスチック浮遊濃度と比較したところ、球形マイクロビーズは全マイクロプラスチックの10%程度を占めていて、これは「無視できるほど少ない」とは言えないようです。












日本の沿岸域で採集したマイクロビーズ(左の写真四葉:枠は5mm四方)と、大学近所のスーパーで購入した製品から取り出したマイクロビーズ(右)

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内湾におけるマイクロプラスチックの選択的輸送過程

Isobe, A., K. Kubo, Y. Tamura, S. Kako, E. Nakashima, and N. Fujii "Selective transport of microplastics and mesoplastics by drifting in coastal waters", Marine Pollution Bulletin, 89, 324-330, 2014.

 私たちは、瀬戸内海で各所で採取したマイクロプラスチックのサイズ別の浮遊密度分布をみて、
そのサイズが、河口の有る無しに関わらず、岸に近いほど次第に大きくなることに注目しました。そして、マイクロプラスチックの輸送シミュレーションを行うことで、海洋での"選択的輸送過程"を提案しています。

瀬戸内海でのサンプリング(a,b)と採取したマイクロプラスチックス(c,d)


岸を離れた採取点(a,c)と岸近く(b,d)でのサイズ別の漂流密度

 そもそも、海水より密度が小さく海洋表面(表皮層)を浮遊するプラスチックス微細片は、海潮流に加えて、岸に向かう風波に伴うストークスドリフトで輸 送されます。比較的大きなプラスチック片は、大きな浮力を得て海面近くを漂うことで、海面近くほど強くなるストークスドリフトにのって岸に運ばれやすくなります。その後に海岸に 打ち上がって、紫外線や寒暖差で劣化・破砕してマイクロプラスチックスに変わり、そして波にさらわれ海へと戻ってゆきます。表皮層以深にも漂流層を広げた微細片には
ストークスドリフトの影響が軽減され、結果としてマイクロプラスチックスは沖へと分布域を広げていくの です。すなわち、沿岸海洋はプラスチック片を効率的に微細片化してしまう機能があると言えます。

マイクロプラスチックスの選択的輸送モデル


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